1997年1月6日月曜日

「民活」が必要な国内景気

景気予測の季節になった。毎年この時期には、簡易モデルなどによるマクロ的な予測作業に並行して、実際に商売をする営業部門がどう景気を見ているか、時間をかけじっくりとヒアリングをすることにしている。

 なにせ総合商社の取扱品目は2万点を超える。それぞれの商品にはそれぞれの業界がある。業界ごとにその道何十年の商社マンがいる。こういった第一線の情報を丹念に聞くことで、統計数字だけではわからない日本経済の生の姿が正確に見えてくる。

 さて、そうやって聞き取った景況感であるが、なかなかきびしいものであった。統計の数字をみる限りでは、景気は緩やかな回復と読めるが、実態はそれほど楽観できないとの印象を受けた。
 まず第一に業界の満足感がまだまだ低いということ。通常の景気回復期には絶好調で自信に満ちあふれている業界があるものだが、今回はそんなことはない。よいところもあるが、好況感も「ちゅうくらい」なのだ。

 二つ目は先行き不透明感である。いま調子の良い業界でも現在の好況が来年度も継続することには確信が持てずにいる。

 三つ目は「まだら模様」という点である。晴れの業種や曇りの業種というように、業種によってまだら模様がみられるのは毎度のことである。しかし今回は、この業種ごとのまだら模様に加え、品種によるまだら模様、企業によるまだら模様と、まだらが三つどもえに複雑に入り込んでいるのが特徴である。背景には日本産業の大きな構造変化がある。いろんなレベルでの激しい競争が続き、いよいよ勝者と敗者の区別がはっきりしてきているとの印象である。

 このような景気の基調の弱さは、計数的アプローチでも裏付けられる。経済調査チームで作業したが、来年度の実質経済成長率の予測値は1.5%となった。公共投資の息切れ、消費税率のアップ、特別減税の打ち切りで、来年度は7兆円程度のデフレ効果は避けられない。外需などの一部の需要項目の好転が期待できるものの、実質成長率は1%台とならざるを得ない。日本経済の潜在成長率を計算すると2.5%程度となるので、来年度の成長率が1.5%ということは、来年度だけで実現できた筈のGDPの1%(5兆円)の財・サービスを無駄にすることになる。

 日本産業は大きな構造調整の真っ直中にある。調整の痛みは、対症療法ではなく経済全体の「パイの拡大」のなかで癒されるのが望ましい。経済の構造調整を促進するためにも、もっと高い成長率が指向されねばならない。

 しかし財政赤字が積み上がる中、非効率な公共投資は増やせない事情がある。日本の貧困な社会資本はなかなか充実されない。一方で低金利にも拘わらず、需要の低迷、先行き不安から、民間の貯蓄は国内での設備投資にまわらず海外に向かう。

 政府の公共投資を毎年1兆円づつ効率の良い民間投資に振りかえるだけで、実質成長率は年々0.6%アップするという興味深い試算がある(日経センターの生産関数モデル)。社会資本の整備の「民活」化を加速させるべきである。景気も、この国の将来も、これにかかっているのではないか。

(橋本 尚幸)